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ロシアの経済的事情

最近、ロシア側が、北方領土に関して何かと日本側を刺激する行動をとっているようだ。

 https://digital.asahi.com/articles/ASM3D5HWPM3DUHBI027.html
 >ロシア、北方領土で軍事演習 500人規模、軍用車両も
 https://jp.reuters.com/article/ru-internet-idJPKCN1QF309
 >ロシア、北方領土の3島に高速インターネット網構築…
 http://news.livedoor.com/article/detail/16096816/
 >露、北方領土開発へ 1兆4千億円規模で特区拡大計画露、北方領土開発へ 1兆4千億円規模で特区拡大計画

このうちの経済開発について、最初に考えてみる。

まず、ロシアにおいて北方領土を管轄している極東地域について概観すると以下のようになる。

ロシアの国土は、西三分の一のヨーロッパロシアと呼ばれる地域、中央三分の一の主にシベリアと呼ばれる地域、東三分の一の極東と呼ばれる地域から成り立っている。これら三つの地域の人口比は、大体以下のようになっている。

 ヨーロッパロシア:シベリア:極東
     110 : 30 : 6
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%91%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%B5%E6%9D%B1%E9%80%A3%E9%82%A6%E7%AE%A1%E5%8C%BA

ヨーロッパロシアから見れば、極東ロシアというのは数千km離れた人口の少ない僻地でしかない。ヨーロッパと極東との間には広大なシベリアが広がっているため、シベリア鉄道や最近整備されたシベリア横断道路などが存在しはするが基本的には途中に広大な通行不能の海洋が広がっているようなものであり、東西両地域が経済的に結びついて活発に物をやり取りできるような状況にはない。だから、極東ロシア経済はヨーロッパロシア経済とは別に独立独歩で採算を立てなければならない状況にあるが、主要な産業がないため長く独り立ちできない状態が続いていて、ヨーロッパロシアから取り残されて開発が行われないできた(そういう事情は、中央ロシアのシベリア地区も極東よりかはだいぶましではあるがほぼ同じだ)。ロシア極東地域は、日本では「僻地」と言われる知床地域などの何十分の一の人口密度しか持たない。ロシア極東地域は日本の国土の十数倍の面積を持つが、そこに住んでいるのは千葉県の人口とほぼ同じ620万人くらいだから、いかに広大な地域にいかに少ない人々が住んでいるのか理解できるだろう。このように極東地域は産業がない上に人口が極度に少なかったため、ヨーロッパロシアからの「寄付金」に頼るしか手がない状態であり、ソ連邦時代からずっと金を食い続けて来た極貧状態のお荷物の地域だ。その極東地域の東端に千島列島がある。

さて、意外に知られていないが、ロシアという国の経済と国家予算の規模は日本よりはるかに小さい。たとえば、ロシアの国家予算は30兆円前後であり、この中から7兆円くらいが軍事費として消えていく。だから、実質の民生に使える予算は23兆円くらいだ(以下参照)。しかも、今はウクライナ問題で世界から経済制裁を受けているため、そうでなくとも苦しいロシア経済はさらに苦しい状態にある。

http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11019010_po_02740107.pdf?contentNo=1

そのような民生に使える予算が23兆円の国が、1.7兆円の投資を極東地域の大陸部に行わずに極東地域のさらに先の島々に対して行うそうだ。日本の場合に当てはめて考えてみれば、国家予算100兆円(軍事費5兆円、民生用予算95兆円)の中から7兆円を出してソロモン諸島より先の島々に投資をするということになる。仮定の話として、もしもソロモン諸島が日本領であったとして、それらを7兆円かけて開発したならばどうなるだろうか?現状では漁業くらいしか興せないはずだ。そこで獲れた魚は上述したよう極東からヨーロッパロシアに持って行って売りさばくことなどできない。だから、日本とソロモン諸島の関係に当てはめて考えた場合、捕れた魚はオーストラリアなどの現地の国々に買ってもらうくらいしか手がない。現在の日本は他の国々に対して非道なマネをしていないため経済制裁を受けていない状態だから、獲れた魚をオーストラリアなどに買ってもらうということが可能かもしれない(その場合でも、魚やカニなどを売った額など微々たるものであり、投資した7兆円分の元を取ることなど明白に不可能だが)。しかし、今のロシアは経済制裁を受けているため世界から相手にしてもらえない。ましてや、開発を行い怒らせた日本が獲れた魚などを買ってくれるわけがない。もちろん、漁業以外の産業を興こすことはもっと絶望的だ。例えば、各種産業が存在する上に観光でも有名な北海道のように観光で食べていくことができるだろうか?それはうまく行くわけがない。なぜなら、観光で人を呼ぼうにも、北海道のような札幌や旭川などの大都市がない単なる未開発の大自然だけの島々に開発費に見合うほど観光客が行くことがないのは火を見るより明らかだからだ。ロシアにとっては、北方領土で産業を興こすことなどできない。つまり、ロシアにとって北方領土の開発は、はっきり言って「無駄」でしかない。そういう「無駄」に、日本の面積の十数倍はある極貧状態の大陸の極東地域を放っておいて金をかけるというのだから、是非にやっていただきたいものである。

今のロシアには大した産業がないために、経済活動や国家予算の多くを石油とガスに依存している。しかし、今のロシアには金がないから、油田やガス田開発などをうまく行えない。経済制裁を受けているために、ロシアの外貨獲得にとって唯一の頼みの綱である油田とガス田の開発が行えないのだ。そうでなくとも油田・ガス田開発のための資金などなかったために、日米英欄などの企業に鉱区を売って開発させ、生産分与により上がりを吸っている状態だ。油田・ガス田は一つの井戸ではすぐに枯れてしまうため毎年次々に生産地域内で生産拠点を移動して開発を続ける必要がある。今のロシアでは経済制裁によりそれができないのだから、やがて生産量がどんどんと落ち込んでいくこと必定だ。そういう窮状にある国が莫大な無駄な投資をすると言っているのだから、そういう行為は「はったり」でしかない。

大局的に見てみても、今のロシアは切羽詰まっているはずだ。ロシアがなんとか石油やガスの生産を継続できたとしても、今から16年後の2035年頃には核融合の実験商用炉が現れるだろうと言われている。そして、そこからさらに10年経った2045年ごろまでには、普通の商用炉が運転を始めるだろうと言われている。核融合炉というのは、今の原子力発電が用いている核分裂炉とは原理が異なりはるかに安全だ。だから、明白に、核融合炉は将来のエネルギー産業の基幹方式となって行く。その場合、核融合炉のエネルギー源は自然界の水の中に一定程度存在する重水などであるから、自然界から水を取って来てそこに一定程度含まれる重水などを分離するだけでエネルギー源が得られることになる。つまり、あと十数年から二十数年後の社会においては、産油国のアドバンテージなど消えてなくなるのだ。

今のロシアというのは、ソ連邦時代に閉鎖的な環境下で西側の経済発展から取り残されたために、各種産業が立ち行かなくなるくらい遅れている。自動車、精密機械、半導体、コンピューター、食品産業、etc.etc.が旧西側諸国の企業に依存している状況だ。鉄やコンクリートなどのソ連邦時代からの重厚長大産業は健在であり軍需産業は相変わらず世界トップレベルの技術を誇っているようではあるが、それだけでは渡っていけない社会・時代になっている(ソ連邦時代の自給自足経済体制に逆戻りしたのならば、政権が倒れること必定だ)。だから、ロシアは石油・ガスなどのエネルギー産業以外の産業を立ち上げようと必死になっている。ところが、どれも成功していない。それは、当たり前の話だ。旧西側諸国の企業が4,50年の間必死になって技術開発や商品開発を行ってきた傍らで、一人歩みを止めて停滞していたのだから。資本の蓄積と技術の蓄積が行われ更に食い合いによる統廃合により超巨大企業が出来上がっている分野に、今さら技術を持たない中小規模のロシア企業が新規に現れて太刀打ちできるわけがない。ロシア以外の先進国の企業においてさえ、必死になって経済競争を行って来ても、いくつかの分野で敗れて資本と技術の蓄積が必要な分野には二度と戻れなくなっている。巨大な資本と技術力を掛けて最先端のしのぎ合いを行っている企業でさえ経済競争において厳しい状況にあるのに、ましてや、4,50年も遅れている資本も技術力も持たない勢力が割り込めるとは思えない。ロシアのこの状況が、核融合における2035年の実験商用炉の稼働や2045年の実用炉の稼働までに自然に改善するわけがない。そして、そのように他の産業が興っていない状態でエネルギー資源への需要が減って行くと、ロシアは永遠に二流・三流国の中に沈んでいくことになる。

つまり、時間を切られているのはロシアの方なのだ!

そうならないためには、今のロシアにはどうしても金が必要だ。タイムリミットまでに金を稼いで各種の開発を行いたいはずだ。各種インフラを整え、エネルギー産業以外の自国産業を興し、農業や食品産業などの既存の産業の強化も行いたいはずだ。ところが、今のロシアは、世界からの経済制裁により金を稼ぎ難くなっている。そういう状況下で、日本は今年に入って以下のようにロシアからの石油やガスの輸入量を減らしている。

 https://jp.sputniknews.com/business/201903055998891/
 >2019年の初めから日本はロシア産石油の買入量を一気に40.5%
 削減した。また液化天然ガス(LNG)の輸入も前年同時期比で7.6%
 減少した。一方で米国の炭化水素の輸入は急増。石油は328%、LNG
 は36.1%増加している。

ロシア極東の経済規模は非常に小さい。ロシアという国家予算が日本の三分の一、経済規模が日本の二分の一くらいの小さな国の中で、さらに西部地区の数分の一という経済規模しか持たないのが極東地域だ。日本は数年前に、この非常に小さな経済規模の地域からの石油やガスの輸入量を大幅に増やした。民主党政権時代に日ロ関係は冷え切ったが、自民党政権に変わったとみるやプーチンの方から安倍にすり寄って来て経済協力が進んだためだ。その結果、千葉県の人口くらいしか住んでいない極小の経済規模の極東地域に、日本からだけで毎年1兆円前後の貿易黒字が発生するようになっていた。それまで何も産業がなくお荷物状態だった極東地域において、2000年代からガス・石油の輸出が強化され、2012年の安倍プーチンの時代になってから一挙に輸出量が増えて行った。極東全体ではまだ人口が減りかけていたりするが、一部の油田・ガス田地帯の周りでは経済が潤い成金が続出している。極東地域は、地理的要因のためにヨーロッパロシアと物資の大々的なやり取りをできないが、代わりにヨーロッパから離れた日本、韓国、中国などへのエネルギー資源の輸出により何とか独り歩きをできるようになりかけている。そして、潤った極東地域が経済的発展を背景に強気な態度に出て、領土交渉においてはロシア極東の民意が国粋主義的になっていた。

日本は、領土交渉がうまく行きそうに思えた昨年9月以降、経済制裁により減ったガス・石油の輸入量を一挙に増やした。ところが、ロシアが領土問題で屁理屈を並べて強硬姿勢を示したためだろうが、日本は年頭から輸入量を激減させている。しかも、輸入先を米国に切り替えている。こういう状況下で行われたのが、冒頭に引用した記事の「軍事演習」や「経済開発」の話だ。今のプーチンの一番の関心ごとは、ロシア経済の話だ(以下参照)。

 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40896350V00C19A2000000/
 >ロシア成長率2%台止まり、プーチン政権に逆風
 https://jp.wsj.com/articles/SB12479105983883464394704585197761025137670
 >プーチン人気衰え、支持基盤の地方に生活苦と失望

何とか日本に金を出させようと画策して各種の動きを起こしているのだろう。だから、日本に対し以下のように強気な態度に出ている割には、必ず経済的な話がついて回っている。

 https://www.huffingtonpost.jp/entry/putin-peace-treaty-japan-and-russia_jp_5c8c9b83e4b0d7f6b0f3bfad
 >平和条約交渉、プーチン大統領「失速している」と発言か 地元紙も
 「ロシアは島を引き渡すつもりはない」

ロシア側の公式な発言においても「日本はアメリカ主導の経済制裁に加担するべきではない」「日ロの経済発展にはもっとポテンシャルがある」「領土問題を話すほど日ロの結びつき(経済関係)が出来上がっていない」などという主張がほとんど必ず付け加えられていることから、今のロシアは経済について非常に気にかけていることが分かる。

日本は、これまでに散々にソ連やロシアに裏切られて来た(その事情は追々書くと言ってまだ書いていないが)。プーチン自身もロシア経済が非常に弱かった2000年頃には「4島について議論する」と署名までして日本側と約束した。ところが、誰のおかげでロシア経済が良くなったのかも理解せずに、ロシアの経済的な状況がよくなると「領土問題は存在しない」と態度を180度転換した。そういう国に対しては、今は「大安売り」をした上に義務も必要もない経済援助を行う言われなどないだろう。日本に対して理屈の立たないめちゃくちゃを言いたい放題言い、都合が悪くなると鉄のカーテンの向こう側に貝のように閉じこもって完全シャットダウンを繰り返した「舐め切った」ソ連時代の「政策」が通じるとでも思っているのだろうか。アメリカによる経済制裁を利用し日本側の最後の一押しによりロシアの政権を一度潰しておけば、ロシアという国の政権において極東の日本に対する見方が変わり、「軽く見ていい加減なことを言い、都合が悪くなると完全に無視をすればいい」などということは、次の政権では絶対に行えなくなるだろう。まだいくつか外交手段は残されているようだからいきなりそういうきつい経済制裁を行うことはないだろうが、ロシアが舐め切った態度での対日外交を続けるのであれば、最終手段として日本側も今の「緩すぎる」と旧西側諸国から批判されている対ロ経済制裁の引き締めを検討する必要があるだろう。
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