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5、敵国条項について

ソ連は、千島列島領有についての法的な根拠を何も持っていない。

ソ連は、「ヤルタ協定」「ポツダム宣言」「SCAPIN677号」「サンフランシスコ講和条約」などを持ち出して千島列島の領有が正当であると主張していたが、いずれも理由にならないことは説明した。(以下参照)

https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-01
https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-03
https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-04

どれもが理由にならないからこそロシアは慌てているのであり、その結果「屁理屈でも何でもよいから何としても日本にロシアの千島列島領有の正当性を認めさせる」という態度に出ている。そして、ロシア外相のラブロフが今度は「国連憲章敵国条項」を持ち出して以下のように強弁しているが、これは、戦後70年の時間が経ち国際関係と国際法の考え方が変わり立場がどんどん不利になっているロシア側の焦りの表れでしかない。

http://news.livedoor.com/article/detail/16059544/
>ラブロフ氏はモスクワ市内の会合で、旧敵国条項の一つ、国連憲章第107条を念頭に「国連憲章には(第2次大戦での)戦勝国による行為は交渉不可能と書かれている」と主張したことを明らかにした。

国連憲章には「敵国条項」と呼ばれる項目がいくつか存在する。具体的には国連憲章第53条、第77条、第107条に「敵国」の文言が現れる。このうち、第77条は信託統治に関する条文であり、日本については日本が大戦により手放したサイパン・パラオ・トラック諸島などが関係するだけで北方領土とは関係がない。また、第53条は安全保障に必要な地域的な強制措置についての規定であるが、「そのような強制措置は正式な機構が敵国(日本やドイツなど)の新たな侵略を防止するまで」と期限が切られていて、しかも今現在は日本やドイツなどが侵略行為を行っていないのは明白であるから、これも北方領土の話とは関係がない。国連憲章の敵国条項の中で北方領土と関係する可能性があるのは、上記ラブロフ発言にも現れる第107条ただ一条のみだ。

第107条についてのラブロフの主張は、問題にならないレベルの酷い頓珍漢さを示している。第107条の条文を英文で見てみる。

 https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/unch-je.pdf
 Article 107
 Nothing in the present Charter shall invalidate or preclude action, in
 relation to any state which during the Second World War has been
 an enemyof any signatory to the present Charter, taken or authorized
 as a resultof that war by the Governments having responsibility for
 such action.

この長い一文の主な骨格は、以下の部分である。

 Nothing in the present Charter shall invalidate or preclude action...

 「Nothing in the present Charter」という主語が「action(措置)」と
 いう目的語を決して「invalidate or preclude 」してはならない…

 (否定形の「shall」は、特に法文などで用いられたとき、
  「未来予測」ではなく「強い禁止」を表すということに
  説明の必要はないだろう。日本語で言えば、現代の文章
  では珍しくなった「絶対に○○すべからず」というように
  でもなるだろうか)

 つまり、日本語にすればこういうことだ。

 「この憲章のいかなる部分も、(以降で説明される)措置を決して無効に
  したり排除したりしてはならない」

上記骨格部分の後に、「action(措置)」の内容についての詳しい説明が書かれている。その内容は以下のようになる。

 in relation to any state which during the Second World War has been
 an enemy of any signatory to the present Charter, taken or authorized
 as a result of that war by the Governments having responsibility for
 such action.

 「この憲章の加盟国のいずれか一国に対し第二次世界大戦中に敵対した任意の
  国に関する措置であり、(しかも)それらの措置に対して責任を有する(加
  盟国の)政府により大戦の結果として採用されたり承認されたりした措置」

以上をまとめると、国連憲章第107条は次のように訳されることになる。

 国連憲章第107条
 この憲章のいかなる部分も、この憲章の加盟国のいずれか一国に対し第二次
 世界大戦中に敵対した任意の国に関する措置であり、(しかも)それらの措
 置に対して責任を有する(加盟国の)政府により大戦の結果として採用され
 たり承認されたりした措置は、決して無効にしたり排除したりしてはならない。

さて、主語が「Nothing in the present Charter (この憲章のいかなる部分も)」というように人ではない抽象的な概念になっているが、これは、条文の不明確さを排除するために必要な書き方だ。例えば主語を「何人たりとも」などとすれば、「国は例外か?」「法人は例外か?」「まだ存在していなかった新規独立国はどうなるのか?」などというように不明な部分が大量に生じるだろう。そういう不明確さを排除して「どのような存在がどのような条件で行おうとも(以下のことは禁止される)」とするために、このように分かりにくい形の主語で書かれているだけだ。ということは、敢えて曖昧さを加えてもう少しわかりやすい日本語に意訳すれば、第107条は以下のようになる。

 国連憲章第107条
 何人たりとも、この憲章の加盟国のいずれか一国に対し第二次世界大戦中に
 敵対した任意の国に関する措置であり、(しかも)それらの措置に対して責
 任を有する(加盟国の)政府により大戦の結果として採用されたり承認され
 たりした措置については、それらを無効にしたり排除したりする目的でこの
 憲章のいかなる部分をも決して利用してはならない。

つまり、我々がやってはいけないことというのは、「国連憲章の一部を利用する」という形で戦勝国の採用した方針に盾突くということだ。国連憲章は1945年に作られたものであり、各国に平等な政治的独立を認めている。そのため、国連憲章中の規定のいくつかは、そのままでは、当時の日本やドイツにおける連合国による占領統治政策と衝突してしまう。それを避けるために「占領統治などは例外であり、文句を言えない」ということを保障するために設定された条項が第107条だ。

いずれにしても、我々がやってはいけないことというのは、「国連憲章の一部を利用する」という形で戦勝国の採用した方針に盾突くことだ。

さて、では、我々日本人が「北方領土を返せ」とロシアに対して主張しているとき、我々は国連憲章のどこか一部でも利用しているだろうか? 答えは、NOである! 我々日本人が北方領土に関してロシアに抗議している根拠は、「1855年の日ロ和親条約」や「1875年の樺太・千島交換条約」であり、また、「1943年のカイロ宣言」である。

それらはいずれも、国連憲章とは関係がない!

「1855年の日ロ和親条約」も「1875年の樺太・千島交換条約」も「1943年のカイロ宣言」も、独自の2国間の条約や約束であり国連憲章とは関係がない。(条約的な考え方については、他の事項まで含めて既に以下で説明した。)

https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-01
https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-03
https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-04

ここまで見てくれば、「国連憲章には(第2次大戦での)戦勝国による行為は交渉不可能と書かれている」というラブロフの主張がいかに的外れなものであるかは火を見るよりも明らかだ。こういうことから考えると、

 ラブロフは、分かってゴリ押しをしているか、英語が読めないとしか思えない!
 (しかも、国連憲章についてロシア語の訳が存在しないかまともな訳が存在し
 ないということでもあるようだ)

我々日本人は日本語という膠着語を用いているために、インドヨーロッパ語族の屈折語である英語を理解することはかなり難しい。しかし、同じインドヨーロッパ語族のロシア語と英語の関係において、英語が全く読めない者が堂々と人前で無知をさらしても平気な国というのは、どういう教養レベルにあるのかはなはだ不思議に思えてしかたない。普通、日本やアメリカなどの場合は、文書の意味が分からずに滅茶苦茶なことを言っていると「国家の品格に関わる」として他の閣僚やマスコミなどから苦言が呈されるものだ。

いずれにしても、人権や平和の考え方が時間の経過とともに世界中に浸透するにつれて、70年前にロシアの行った理屈の立たない暴虐な侵略行為が弁護される余地は皆無に近くなっている。そのため、ロシアは次々に嘘をつき屁理屈を並べている。最近のラブロフの発言というのもそういう類の意味のない歪曲されたものだ。ロシアの政府高官が明らかな嘘や誤解に基づいて国民を焚きつけ扇動していることについては、日本側は厳しく非難・抗議するべきだ。それを全く行わずに嘘を一人歩きさせると、後でそれを修正する分が何倍もの負担になって返ってくることを我々日本人は肝に銘じて対処するべきだろう。
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