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北方領土についてのロシア側主張のおかしさ

ソ連やロシアは北方領土についていくつか主張を行っているが、いずれの主張にも正当性はない。北方領土に対するロシア側の主張をきちんとまとめた物が現在ではネットに提示されなくなって来ている。ソ連の権益を継受したロシアは「(ソ連邦時代に)解決済み」と自信をもって誤解した状態であり、北方領土問題の内容を詳細に検討していないからだ。そのため、問題の根本を掘り起こすと、前回指摘したようなソ連邦時代に言われた滅茶苦茶な主張が依然として「正当な解決済みのもの」としてまかり通っている。ソ連側の主張は、サンフランシスコ講和条約や日ソ共同宣言に関係していくつか書いたが、ここではネットに転がっているソ連邦時代から継続しているロシア側の主張についていくつか見てみようと思う。



まず、ソ連邦時代からの典型的な主張としては、以下に現れるように「ヤルタ協定」を根拠としたものがある。

 (1) http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/RussiaKunashir/HenkannFuyouron.htm
 >イーゴリ・ロガチョフ ソ連外務次官
   「イズベスチヤ」一九八九年四月二十四日
…戦後日本の領土主権に関する最重要文書は、ヤルタ協定(一九四五年)である。同協定で,クリール列島のソ連割譲」が直接規定されている。…

ヤルタ協定というのは日本に知らせずに秘密裏に米英ソの間で結ばれた秘密協定であるから、領土の割譲に関する国際法上の正当性を何ら保証しない。普通に考えてみれば、当事者の知らない間に第三者同士が秘密協定を結び「私にこうしてくれるなら当事者の権利を取り上げてあなたに差し上げる」と約束することは「強盗行為」や「侵略行為」そのものであるのだから、「この戦いは利得や領土拡大のためではない。日本の侵略行為を正すための戦いだ」とカイロ宣言やポツダム宣言で強調した米英が公の場でヤルタ協定を推すことはできない。実際、ヤルタ協定に関係した3国のうち米英2国は既にその正当性を否定しているから(以下(2)参照)、ヤルタ協定が有効だと主張しているのはソ連だけという状態だった。つまり、ヤルタ協定はソ連の説明と180度異なり、国際社会では何の意味も持たないのだ。そういう事情は既に以下で説明した。

 (2) https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-01

上記(1)のロガチョフの主張においてはヤルタ協定に関係してサンフランシスコ講和条約についても以下のように主張しているが、これも正しくない。

 (3) >…ヤルタ協定とその合意事項は、一九五一年のサンフランシスコ
    講和条約で確認され、…

実際、サンフランシスコ講和条約の条文作成に貢献した主だった締結国である米英仏は「同条約において、千島列島を日本からソ連に向けて割譲させたという認識はない」と述べている(以下(4)参照)。これは、日ソ共同宣言の交渉時に日本から米英仏に対して事実確認を行ったときの三国の回答である。

 (4) https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-04

また、サンフランシスコ講和条約では、ソ連を念頭において「非締結国はこの条約からいかなる形でも利益を引き出してはいけない」と規定している(以下(5)参照)。

 (5) https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-03
 >第二十五条
 この条約の適用上、連合国とは、日本国と戦争していた国又は以前に第二
 十三条に列記する国の領域の一部をなしていたものをいう。但し、各場合
 に当該国がこの条約に署名し且つこれを批准したことを条件とする。第二
 十一条の規定を留保して、この条約は、ここに定義された連合国の一国で
 ないいずれの国に対しても、いかなる権利、権原又は利益も与えるもので
 はない。また、日本国のいかなる権利、権原又は利益も、この条約のいか
 なる規定によつても前記のとおり定義された連合国の一国でない国のため
 に減損され、又は害されるものとみなしてはならない。

この第25条によれば、ソ連やロシアは「(領土問題をソ連やロシアに有利に導くために)日本が千島や樺太を放棄した」と主張することが一切不可能になる。なぜなら、日本が千島や樺太を放棄した条約はサンフランシスコ講和条約ただ一つにおいてであり、そのただ一つの条約をソ連やロシアは第25条のためにどのような形においても利用してはならないからである。第25条は約50カ国が集まって作り上げた重要な国際条約であり国際社会における重要な約束事であるから、ロシアもこの条項は順守しなければならない。それを無視してサンフランシスコ講和条約から都合の良い一部だけを自国の利益のために引用するのであれば、多くの国々が同意して作り上げた国際条約に公然と違反することになり、ロシアが無法者国家の烙印を押されることになるだけだ。ドイツ最終規定条約のように国際社会において複数国で話し合うことを絶対的に嫌がり、日ロ2国間交渉に拘泥したのはソ連とロシアであるから、日本側にこのように主張されてもロシアは何も文句を言えまい。1950年代というまだ戦争が終わったばかりであり国際社会における対日感情が非常に悪かった時代には、敗戦国日本が堂々と第25条を盾にして「貴国ソ連にそう主張できる権利はない」とは言えなかった事情が存在する。しかし、今でもそういうソ連邦時代の無謀で国際法に堂々と違反する主張が通用するとは思わないことだ。金科玉条のようにサンフランシスコ講和条約を引用して何かの利益を主張するという違法行為はもう通用しないのだ!各種事情により歪んでしまった話を元に戻して、論理的に「法と正義」の観点から領土論を論じることのみが、日ロ両国の未来の発展をもたらすということを理解するべきだ。

以上をまとめると、ヤルタ協定は侵略的密約であるから、国際法上は否定されるだけでありなんらの保護も受けないし保証もされない。また、ヤルタ協定について密約相手の米英により既にロシアの主張は否定されていてロシア一国がその有効性を主張しているだけの状態であるから、そういう意味においてもロシアの主張するような「国際的な承認」など微塵も存在していない。

さらに、サンフランシスコ講和条約については、ロシアが同条約を引用して何かを主張することを行ってはならない。ロシアの好む「国際社会を否定した二国間交渉」においては、ロシアは「日本が千島や樺太を放棄した」という根本も根本の部分から条約的なロシアの正当性を説明する必要があるが、それは、上述したように神仏でも不可能なことだ。

以上説明したように、ソ連やロシアは「国際法的解釈」や「国際社会における承認」などについて実にバカバカしい主張を繰り返して来た。上述した例以外にも、ソ連は、日本固有の領土について保障したカイロ宣言とポツダム宣言から条文の一部だけを切り出して非論理的な逆の主張を行った。また、占領軍が「一時的に」として「この命令は最終的な領土を定めない旨」を警告した上で発したSCAPIN677号の一部だけを切り出して自国に都合がよい主張も繰り返した。ソ連が北方領土の不法占拠についてそのようなバカらしいレベルの滅茶苦茶な主張を行っていたことについては以下でも説明した。

 (6) https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-04

ソ連はそういう滅茶苦茶な説明の数々を問答無用で主張し続け、日本が何か言うと鉄のカーテンの向こう側に閉じこもり「完全に無視すること」を繰り返した。ソ連からロシアに代わっても全く理由の立たない屁理屈を次から次へと目先を変えては主張し、日本側とまともに交渉しようとしていない。例えば、最近においてもラブロフは「国連憲章の敵国条項についての不正確で意味をなさない引用」などを行っている(以下参照)。

 (7) https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-05

ロシアは、自分たちの先輩たちが行った問答無用の無茶苦茶な主張を「正しい既成事実」と勘違いして領土論を展開しないことだ。



以上、ロシアの北方領土占領について条約上の根拠がまったく、何も、皆無に存在していないことを説明した。後は余談として、ソ連やロシアの側の歴史認識についても誤りがあること、また、どうやったらそう考えられるのかと思えるくらい論理展開に無理があることを指摘しておく。

 (9) (上記(1)発言から)
 >しかし、ロシア人探検家が、十七世紀前半の時代から北太平洋
  の島々を含む極東の新しい土地を発見したことは、歴史資料が
  証明している。十八世紀、南部を含むクリール列島の全島がロ
  シアに属していた。

上に書かれた「歴史」が全くのでたらめであることは、以下を読んでいただければわかることだろう。

 (10) https://qvahgle-gquagle.blog.so-net.ne.jp/2019-03-05-06

日本人は16世紀末までには蝦夷地全域を緩く支配し、その結果、17世紀初頭には根室を拠点としたアイヌ(国後や択捉を支配したアイヌ)が北海道西部に来て交易をしていた状態だ。北方領土の支配も17世紀後半から18世紀初頭に終わっていて幕府に報告書が出されていた。ロシアは、その頃になってやっとのことで誰も行きたがらない極東地域に囚人兵を送り込み、南千島から数百kmも離れた北千島の最北端において原住民のアイヌたちと抗争を始めたばかりだった。そこから更にアイヌたちを切り従えて南千島まで数百km南下して来るまでに数十年もかかっている。そして、幕府が既に番所を置き数百人の役人を配置し、民間人も大量に入り込んでいた南千島の択捉島を軍艦で攻撃し、樺太などの日本人居住地域も攻撃して侵略的行為を行った。ロシア人には「どちらが元々住んでいて侵略を受けたのか?」ということが理解できていない。その結果、文句のつけようのない完全な「日本の財産」に対して「(日本が侵略をして煩いから)江戸時代に恩恵的に日本に譲ってやった(だから返すのは当然だ)」という主張を行っている。こういう間違った歴史認識の上に、以下のようなサンフランシスコ講和条約案作成時にも行われた非論理的な主張がそれから40年ほど経った時代にも平然と繰り返されている。

 (11) (上記(1)発言から)
 >しかるにその後、日本は領土拡張主義に乗り出し、結局は日露
  戦争の勃発と日本によるサハリン南部の奪取という結果になっ
  た。これにより、国境線の画定に関する両国の協定は、すべて
  御破算になってしまった。

上記のように「サハリン(樺太)南部の奪取」と言うからには、「サハリン(樺太)がロシアの物であった」という証拠が必要だ。沿海州を含む樺太周辺は、1689年のネルチンスク条約から1858年の璦琿条約まで中国の領土だった(以下参照)。

 (12) https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/aa/d5839d63027e70d69d5bb657790be64b.gif

だから、ソ連が「樺太はソ連の物だ」と言うためには、何処かで領土の切り替えが行われていなければそう言うことができない。そういう国境線の変更・確定は、1875年の樺太・千島返還条約により初めて行われた。もともと樺太には樺太アイヌなどが住んでいて大陸アイヌを通して沿海州の中国人たちに貢物を送ったりしていたが、日本人とロシア人は、中国の清朝が弱り周辺領域の管理を行えなくなったことに乗じていつのまにか江戸時代から樺太に住み着くようになった。そういう事情は、清が璦琿条約により正式に沿海州をロシアに割譲した後も続いた。この頃の清朝は、周辺地域を管理する余裕は江戸時代よりも更になくなっていたため樺太に口を出せる状況ではなかった。そこで、実際に自国民が住んでいて権益が存在した日本とロシアで樺太の帰属を決める話し合いが持たれた。その結果、上述(10)でも説明したことだが、1875年に樺太・千島交換条約が結ばれロシアは樺太を得る代わりに日本は北千島をロシアから譲り受けた。

つまり、1875年の条約によってはじめて「樺太はロシアの物だ」と主張できることになる。

そういう事情を考えながら上の(11)の主張をよく見ると、ソ連は「樺太を奪われた」「樺太はロシア領であった」と主張するときには1875年の条約に依拠していることになるのに、日本の北方領土への主張については「1875年の条約は無効になった」と主張している。つまり、ソ連の主張は自家撞着・矛盾を起こしている。このように、ソ連の主張にはいたるところに非論理性がみられるため、そういう非論理性の上に作られた主張は全て意味がない。

こういうめんどくさい事を考えなくても、歴史上確認できるようにそもそも「日本の財産」であったものが「御破算」になることなどあり得ないのは火を見るより明らかだ。(ロシアという国は他者の財産権というものをどのように考えているのだろうか?)

このように、北方領土問題について非論理的な発言をするロシア人はネットにも結構存在している。以下の例にも、非論理的な主張を見ることができて面白い。

 (13) http://hamada.u-shimane.ac.jp/research/organization/near/41kenkyu/kenkyu23.data/Tkachenko_B_I.pdf

このロシア人の主張も、御多分に漏れず「ヤルタ協定」や「サンフランシスコ講和条約による千島の放棄」をロシアの千島領有の根拠としていたりするが、それらについては上述したから、この作者だけに見られる非論理性を見てみよう。

 (14) (上記(13)から)
 >したがって、クリル列島南部の一部を除いたクリル諸島および
  南サハリンに対するロシアの主権を承認した二国間の平和条約
  が露日間で締結されれば、上記のサンフランシスコ平和条約第
  26 条が自動的に効力をもつようになり、クリル諸島および南
  サハリンに対するロシアの領土獲得権は日本を除いた同条約の
  当事国にも適用されてしまう。…恐らく、このケースでも共同
  統治のシナリオが展開され、日本が何も獲得することはないで
  あろう。

サンフランシスコ講和条約第26条というのは、以下(15)のように「日本は、日本から見た旧敵国の一部に特別に有利な条件を与えて平和条約を結んではいけない」という規定だ。この条項は、日ソ共同宣言の条約交渉時にダレスが日本に向けて「国後や択捉などの日本固有の領土をソ連にくれてやるなら、第26条により米国も日本固有の領土である沖縄がもらえるはずだ」と主張した際に使われた。

 (15) http://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/docs/19510908.T1J.html
 >第26条
 日本国は、千九百四十二年一月一日の連合国宣言に署名し若しく
 は加入しており且つ日本国に対して戦争状態にある国又は以前に
 第二十三条に列記する国の領域の一部をなしていた国で、この条
 約の署名国でないものと、この条約に定めるところと同一の又は
 実質的に同一の条件で二国間の平和条約を締結する用意を有すべ
 きものとする。但し、この日本国の義務は、この条約の最初の効
 力発生の後三年で満了する。日本国が、いずれかの国との間で、
 この条約で定めるところよりも大きな利益をその国に与える平和
 処理又は戦争請求権処理を行つたときは、これと同一の利益は、
 この条約の当事国にも及ぼさなければならない。

さて、この条項によれば、日本が「与えるのではなく与えられる」のであれば何も問題がないことになる。サンフランシスコ講和条約において日本が放棄したことになっている北方領土の4島に対し、ロシアが日本に返還しても日本から他国に対して何かの権益を与えたことにはならない。というか、条文の意味を理解せず下手に「サンフランシスコ講和条約に規定された平等」を主張するのであれば、もしもロシアが4島を返還した場合「ロシアが認めて北方領土を返還したのだから、米英蘭等もロシアによる北方領土の返還を認めろ」とわざわざ日本側の立場を応援してその他の国に対して説得する作業までロシアに負担してもらえることになる(笑)。そういう冗談は置いておいて、第26条が存在しても日本側にとっては何も困ることがないのであり、北方領土がすんなりと返還されるだけで終わる話だ。このように、なんでもよいから何か屁理屈を主張して北方領土の返還を拒むのはロシア人の常とう手段だ。

ちなみに、この著者は「日ソ共同宣言」の文言についても変なことを主張している。

 (16) (上記(13)から)
 >共同宣言第9条の内容からすれば、両国は前掲の歯舞諸島および
 色丹島をソビエト連邦が所有する領土と見なしていることは明らか
 である。ソ連はこうした領土を、「日本国の要望にこたえかつ日本
 国の利益を考慮して」、すなわち善意の印として、互いに取り決め
 られた条件に基づいて、日本に「返す」のではなく、「引き渡す」
 こと(贈与行為)に同意している。明らかなのは、贈与されうる(
 引き渡されうる)のは、所有者が所有権を有して実際に持っている
 物のみである

この主張は「領土問題が存在することを松本―グロムイコ書簡を公表することにより確認する。その代わり文言は譲る」とした交渉の経緯を忘れた主張でしかない。また、法律的には物には「所有権」と「占有権」が存在するということも理解できていない。日本は所有権について譲った覚えは一つもないのであるから、ロシアが占有権を譲って退去すれば、日本側にとって何も問題がないことになるのだが。



以上のように、北方領土に対するソ連やロシアの主張というのはどれも滅茶苦茶であって全く根拠が存在していない。こういう理由なしのごり押しを何十年も続けているうちに、ロシア人たちも「根本部分が理由・根拠のないごり押しである」ということを忘れてしまい、自信をもって「正当な既成事実である」と錯覚している状態になっている。返還交渉においては、まず、しつこいくらいに向こうの主張の事実を誤認している部分と非論理的な部分を突いて、向う側に「理不尽なことをしてしまった」という反省の念・後ろめたさを発生させることが必要なはずだ。そういう説得の仕方が、諸事情によりうまく機能していないように思えるのだが。


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